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技術的なイノベーションの巨大な波によって、この 20 年間、株式、国債、通貨などの上場取引型金融商品 (ETP) には恩恵がもたらされ、結果として市場の効率化や、取引コストの低減、投資家に対する透明性の向上などが実現されました。

しかし資本市場の大部分は、その流れに取り残されてきました。金利スワップ、クレジット デフォルト スワップ、仕組商品などの店頭 (OTC) デリバティブ市場は 500 兆ドルの規模を誇りますが、この市場を構成する商品の評価は、その他の比較的単純なものの場合と同程度に、即座に、かつ明確に実行されているわけではありません。

ボラティリティが拡大している時代では、トレーダーやそのマネージャーは、特定の商品が市況状況から受ける影響を 1 日の始まりに把握し、適切なアクションを取れるようにしておく必要があります。前日の終業時の状況を反映したレポートは、市場が平穏な場合にしか役立ちません。また、そうした状況下でも、速やかな評価やリスク感応度計算の結果にアクセスできる会社は、市場では大きな強みを持ちます。

上場取引型商品の場合は、それぞれの取引の成立時に価値を確認できますが、OTC デリバティブの場合はそうではなく、複雑な金融モデルを使って価値を計算する必要があります。その達成のために、これまで用いられてきた手法としては、従来型のモンテ カルロ法 (シンプルではあるが、一定範囲のシナリオとその結果を確率論的に計算し尽くすため、計算コストが高くつく) や有限差分法があります。

銀行は、OTC デリバティブ ポートフォリオの価値を夜間の大規模なバッチ処理で計算するために、年間数千万ドルを費やしています。こうした途方もないほどの並行性を持つワークロードは、メインフレーム時代からそのまま進化して、CPU バウンドな従来型のワーカーからなるオンプレミスのクラスターで実行されており、ある 1 日において利用できる各種の計算結果を提供しています。

従来型のアルゴリズムを利用する場合、リアルタイムの価格決定やリスク管理は手に余る作業となります。しかし、機械学習分野の成果が実稼働ワークロードにも取り入れられる中で、従来型のシミュレーションに依拠するシナリオや業界においても、ある注目の方式が現れ始めています。従来型のシミュレーションの出力は、一旦計算されたあと、DNN モデルのトレーニングに利用できます。さらに、この DNN モデルは GPU 支援の導入によってほぼリアルタイムで評価できるのです。

マイクロソフトは先日、人工知能 (AI) ベースの高速なデリバティブ モデルを開発するスタートアップ Riskfuel (英語) との協業を実施しました。その目的は、Riskfuel によって高速化されたモデルを、一般提供が開始された、NVIDIA GPU 搭載の Azure ND40rs_v2 (NDv2 シリーズ) 仮想マシン インスタンスで実行した際のパフォーマンスを測定し、従来型の CPU 駆動の手法と比較することにありました。

Riskfuel は、OTC デリバティブの評価に使われる複雑な価格決定関数を学習するために、ディープ ニューラル ネットワークを先駆けて導入しています。私たちが研究に選んだ金融商品は、外国為替のバリア オプションでした。

この試験の序盤では、データのトレーニングに用いるサンプルの大規模なプールを生成しました。この時、私たちは従来型の CPU ベースのワーカーを使用し、Riskfuel のモデルで概算する領域全体をカバーした入力を用いて従来型モデルを繰り返し実行し、100,000,000 個のトレーニング サンプルを生成しました。従来型モデルでは、1 回の評価の生成につき平均 2,250 ミリ秒 (ms) かかりました。従来型モデルの場合、取引期限によって評価時間が左右されます。

図 1 のヒストグラムは、従来型モデルにおける評価時間の分布を示しています。

 

従来型モデルにおける評価時間の分布を示すヒストグラム

図 1: 従来型モデルにおける評価時間の分布

Riskfuel モデルのトレーニングが済んだ後は、個々の取引の評価が平均 3 ms 以下と極めて速くなりました。また、評価が取引期限によって左右されることもなくなりました。

個々の取引が平均 3 ミリ秒以下と大幅に高速に評価されている様子を示したヒストグラム

図 2: Riskfuel のモデルによって平均 3 ms 以下の評価時間が達成されている様子

以上は個々の評価についての結果であり、バッチ推論のシナリオにおいて Azure ND40rs_v2 仮想マシンが実現できる大規模な並行処理は用いられていません。これを一般的なトレーディング勘定に計上されているような取引ポートフォリオに適用した場合は、メリットがさらに大きくなります。調査の中で、Riskfuel によって高速化されたバージョンの外国為替のバリア オプション モデルと、Azure ND40rs_v2 仮想マシンとを併せて使用したところ、従来型モデルに対して、パフォーマンスが 2,000 万倍向上しました。

図 3 では、1 秒あたりの評価数で表されたスループットについて、GPU を使用しない Azure 仮想マシンで実行した従来型モデルと、Azure ND40rs_v2 仮想マシンで実行した Riskfuel のモデル (青色) とを比較しています。

 

1 秒あたりの評価数で表されたスループットについて、GPU を使用しない Azure 仮想マシンで実行した従来型モデルと、Azure ND40rs_v2 仮想マシンで実行した Riskfuel のモデルとを比較した線グラフ

図 3: 従来型モデルの実行と Riskfuel のモデルとの比較

32,768 件の取引からなるポートフォリオについて、CPU ベースの VM で実行される従来型モデルのスループットは 1 秒あたりわずか 32 回の評価であるのに対し、Azure ND40rs_v2 仮想マシンでのスループットは、1 秒あたり 915,000,000 回の評価となっています。ここでは、スループットが 28,000,000 倍以上も向上しています。

ぜひ注目していただきたいのは、Riskfuel のモデルによる高速化は、精度を犠牲にしたものではないという点です。Riskfuel のモデルは極めて高速であるだけでなく、図 4 に示されているように、生成結果が従来型モデルの場合とほとんど一致しています。

 

Riskfuel のモデルと従来型モデルの精度を比較する線グラフ

図 4: Riskfuel のモデルの精度

以上の結果から明らかなのは、従来型のオンプレミスのハイパフォーマンス コンピューティング (HPC) シミュレーション ワークロードを、ハイブリッドなアプローチによって置き換えられる可能性があるということです。つまり、クラウド上で従来型の手法を使用して DNN のトレーニングに用いるデータセットを生成してから、その DNN を使って、同一の関数一式をほぼリアルタイムで評価できるかもしれない、ということです。

Azure ND40rs_v2 仮想マシンは、NVIDIA GPU ベースの Azure 仮想マシンのファミリーに新しく追加されたマシンです。このタイプのインスタンスは、GPU を使用した AI、機械学習、シミュレーション、HPC などに関する、最も要求の厳しいワークロードのニーズに対応することを想定して設計されています。今回、Azure ND40rs_v2 仮想マシンを利用したのは、このマシンが提供する高度な浮動小数点性能の強みを最大限活かして、推論ステップにおけるバッチ指向処理のパフォーマンスを最大化するとともに、モデルのトレーニングのスループットをできる限り引き上げるためでした。

Azure ND40rs_v2 仮想マシンには 8 基の NVIDIA V100 Tensor コア GPU が搭載されています。各 GPU は 32 GB の GPU メモリを搭載し、高速インターコネクト NVLink で接続されています。これらの GPU をすべてを合わせると、1 ペタフロップスの FP16 演算が実現します。

Riskfuel の創設者兼 CEO の Ryan Ferguson 氏は、Riskfuel の高速化された評価モデルと、NVIDIA GPU を搭載した Azure 上の VM インスタンスとを組み合わせることで、OTC 市場の変革が実現すると予測し、次のように述べています。

「現在のマーケットのボラティリティからは、OTC デリバティブに対する、リアルタイムの評価とリスク管理の必要性が示されています。夜間のバッチ処理の時代は、終わろうとしています。私たちは Azure ND40rs_v2 仮想マシンによる高速推論の素晴らしさだけでなく、モデルのトレーニング タスクに関しても高く評価しています。この高速な GPU インスタンスで、私たちはトレーニング時間を 48 時間から 4 時間以下に短縮しました。短縮されたモデルのトレーニング時間と、オンデマンドの可用性によって、当社の AI エンジニアリング チームの生産性が最大化されています。」

Scotiabank は先日、同銀行の最先端のデリバティブ プラットフォームに Riskfuel のモデルを導入しました。このデリバティブ プラットフォームは、その時点で既に、NVIDIA GPU 搭載の Azure 仮想マシン インスタンスを使った Azure GPU プラットフォームで稼働中でした。Scotiabank の XVA トレーディング統括兼マネージング ディレクターである Karin Bergeron 氏は、同銀行の新しいプラットフォームの長所について、次のように述べています。

「クラウドに移行したことで、何かのきっかけで追加のシナリオ分析が必要になった場合に、臨時の VM を稼働できるようになりました。以前は、このようなタイプのオンデマンド コンピューティングにアクセスすることはできませんでした。また言うまでもなく、パフォーマンスの改善も非常に有り難いと感じています。こうしたオンデマンド コンピューティングへのアクセスは、私のチームがお客様への価格提示をよりよく行うための助けとなります。」

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